演劇!
〜事件発生〜
「はぁ……今日の稽古も疲れたぁー!」
今度の舞台でヒロインを任されたあたしは、舞台衣裳のぞろりとしたドレスを脱ごうと楽屋に向かっていた。
「──あ、リナさん。お疲れ様です。
よかったら、これどうぞ」
大量の缶ジュース抱えてゆたよたと歩いていた舞台衣裳のゼロスが、缶のスポーツ飲料を差し出してきた。
「ちょうど喉が渇いてたのよー。さんきゅ♪」
あたしはウインクをすると、その場で缶を開け、ぐびりっと一口。あーうまい。
「………………遅い」
黒いスポーツカーの運転席のドアに寄りかかりながら、男は不機嫌にうめいた。
リナは普段五分遅れるだけでも電話なりメールなりくれるはずだが、今日はそれがない。
約束の時間から既に二十分。絶対におかしい。
「あれ? ガウリイさん、どーしたんですか?」
男ははっとして声のしたほうを見た。すると、大きな瞳が印象的な幼い顔立ちの少女が、車の正面に立っていた。
「──君は……えーと」
「リナの友達のアメリアです。リナ、まだ出てこないんですか?」
アメリアは丁寧に挨拶をすると、不思議そうな顔でガウリイに問い掛けた。
「そうなんだ。携帯にもつながらないし、悪いけど、呼んできてくれないか?」
「言いにくいんですけど……リナなら、わたしよりずっと前にあがったはずです。
それに、リナは……普段あまり携帯の電源を切らないですよね?」
困ったようにアメリアは言った。
そう。リナはマナーとして電源を切らなければならない場所以外は、オレからの連絡が必ずとれるよう、電源を入れているはずだった。
〜開演〜
プププ……という電子音の後、電源がどうたらと女性の声が聞こえると同時にオレは電話を切った。
嫌な予感を感じ、ガウリイは苛ついたように頭を振った。
黒を基調とした服が、透き通るような金髪をさらに美しく見せる。
「──中を捜してくる」
ただそれだけを言うと、アメリアが出てきたスタッフ用出入口に大股で向かう。
「コラ、てめぇ──」
あまりガラも目つきも良くない警備員が、ガウリイを引き止めようとする。
「ルークさん、この人はわたしの知り合いなんです。通してあげてください」
アメリアがそう言うと、ルークはガウリイを見送った。
「おい! 俺のかわいいミリーナに手を出したら──って聞いてんのか!?」
叫ぶルークを無視しつつ、ガウリイはカンを頼りに無機質な廊下を突き進んだ。
……初めて入ったが、なんてつまらないところだ。
ところどころ汚れた白い壁紙、ガムのはき捨てた跡が残る廊下。
「──チッ。道案内でも連れてくればよかったか」
出入り口を見張っていた目つきの悪い男のことを思い出しつつ、無意識のうちに舌打ちをしながら言った。
ふと、公演のポスターが目に入った。いや、見入ってしまった。
……オペラ歌手のようなの優雅なドレスを身に纏ったリナが大きく映っているポスターだった。
ロイヤルブルーのドレスにリナの髪の毛が、白い肌が、良く映える。
「……リナ」
不意に口から漏れた言葉に、オレは口を覆った。
別にどうということもないのに、誰か聞いていたものは居ないか、と思わず周囲を見回した。
そして、曲がり角のうちのひとつが目に付いた。その曲がり角には、大きな赤い矢印とその道の行き先が描いてある張り紙が貼ってあった。
──舞台──
なぜかオレの意識に引っかかった。妙に気になり、身体の奥がざわざわする。
気が付いたらオレは、その向こうへと駆け出していた。
〜とんでもないオチ〜
ガウリイが舞台裏に入ると、ステージに照明が点いているのが見えた。
衣装のドレスを纏ったリナが両手首を縛られて上から吊されている。
「──リナっ!」
しかしリナは意識がないのか、ぐったりとして答えない。
「……ふっ。随分と遅かったですねぇ。ガウリイさん」
どこかで聞いたような調子の声がステージに響いた。
──そして、その声の主は舞台のリナのさらに向こう側からゆっくりと姿を現した。
舞台背景に合わせた吸血鬼のような衣装が妙に似合っている。
……リナを縛るときにでも蹴られたのだろうか……? 左頬についたハイヒールの痕がやたら痛々しい。
現れたのは、ガウリイと会社で同期のゼロスだった。
「──なぜお前がリナを狙う!?」
だかその言葉にゼロスは笑みを深くした。
「……何故……ですって? 簡単じゃあないですか。リナさんは美しい……だからこそ僕のものになるべきなんですよ」
完全にイった眼と芝居がかった動作でゼロスは言った。
「──リナはオレのものだ!」
本人が聞いたらハイヒールを全力投球してきそうなセリフを叫びつつ、ガウリイは舞台上に出てきた。
「……ぅ……んっ……?」
リナはやっと気がついたのか、眠そうに身じろぎをした。
「……リナっ!」
ガウリイはふたたびリナを呼んだ。
「んぁ……が……ガウリイ……?
──はっ! ゼロスっこのアホー!」
気がつくなりリナは、今の状態もなんのその。ぴょんこぴょんこ暴れ回り、ハイヒールをゼロス目がけて落としてみたりする。
「──ふんっ!」
ぱこんっ
「…………はうっ」
ナイスコントロール。
リナが狙いをすまして放ったハイヒールは、見事ゼロスのこめかみに直撃し、昏倒させた。
「…………こうなるとオレの立場ってもんが……」
気まずげにガウリイが呻く。
「そんなんいーから早く下ろしなさいよー! トイレ〜!」
めでたしめでたし。
────あとがき────
自分の中でかなりの駄作。2013/12大幅修正。
社会人演劇サークルのイメージ。ちなみに演目は「オペラ座の怪人」のつもりでした。四季のオペラ座の怪人見たいよ〜。
あと、ガウリイの運転する車は、同乗者がいない、もしくはリナ一人ならポルシェボクスター。他に同乗者が増えるする場合にはレクサスLSのイメージ。
