cigarette
カチ、カチ スゥゥ…… フー
「……おい、やめろ」
「──え? ……ああ、ごめんなさい。つい、癖で」
疎ましげに顎でそれ、と煙草を示すと、彼女は携帯灰皿に点けたばかりの煙草を押し込んだ。
「やめられなかったんだな」
ついこの間まで、“もう二週間も吸っていません!”と自慢げに話していたようだが、どうやらそれも一時的なものだったようだ。
「──そうですね、結局、意志が弱いのでしょうね」
自嘲めいた笑いを浮かべながら、彼女は答えた。
まだあどけなさの残る童顔。つややかな黒髪とまるで未成熟の果実のような肌。ぱっと見では未成年かそうでないか微妙なところだ。
大学では優等生だった彼女。優秀な成績で知らぬ者はいない大手化粧品メーカーの研究員となった彼女。一流商社のご令嬢で、どこへ出しても恥ずかしくない箱入り娘。そんな非の打ち所の無さそうな彼女がヘビースモーカーだなんて、誰が予想できるだろうか。
「…………それは、いつから吸い始めたんだ?」
「ええと、4年くらいじゃないですか?」
「その頃、何かあったのか」
「……女には、色々ありますよ?」
色々、の内容は詳しく言いたくないようだった。虚ろな闇をちらつかせたその瞳からして、あまりいいことではないのだろう。
「そうか。だが──いいかげん、きちんとやめたらどうだ」
「そうですね……考えておきます」
ポケットにある煙草に触れる。無意識なのだろう。
自分が記憶している限り、彼女は禁煙のすすめを受けるとき、いつもポケットの煙草に少し触れる……憂いを帯びた表情と共に。
「いいかげん、この関係にケジメをつけようと思うんだが」
「…………そうですか………………そう、ですね」
自分と彼女との交際は、やかましい友人の紹介で知り合い、もうすぐ3年になる。
倦怠期……とは、少し違うような気もする。慣れだろうか? お互いの都合と気分が合致した時のみ会い、そうでない時はお互いに干渉しないようになっていた。
いつからだろう? こんなに隙間風を感じるような関係になったのは。
──まるで、彼女の吸ってきた煙草の煙が、お互いの姿を見えなくさせているようだ。
そんな詩的な表現を思いついた自分がすこし可笑しくなる。
自分の中で答えは出ている。
いつもそうだ。答えは出ているのに、なかなか言い出せない。
そんな自分の気持ちをいち早く察知してフォローしてくれた彼女に、自分はいつから想いを寄せていたのか……
そして、照れながらもそんな自分の気持ちに寄り添い、応えてくれた彼女。
あの頃の彼女はどこへ行ったのか?
……そんなことはもうどうでもいい、お互いの関係をこれから一度清算し、新たな一歩を踏み出すと決めたのは自分だ。
彼女の正面へと向き直り、膝まづいた。
「……結婚しよう」
淀みない動作で差し出されるダイヤモンドリング。一粒石の優美なデザインの指輪だ。
「あっ、えっ?」
「必ず幸せにします。俺と──結婚してください」
「……はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
「煙草、やめる気になったか?」
「──はい、もちろん」
──Will you marry me?
Yes. Of course I will.──
────あとがき────
うちの旦那にも膝まづいてプロポーズして欲しかったなぁ……しみじみのろけ。
自分にしては珍しく現代パロで、かつ結婚モノ。
倦怠期からの結婚もありなのかなって思う。結婚ってきっかけだよね。と超スピード婚の自分が言ってみたり。
英文は多分まちがっていないはず。
