事件
「──大変です姐さんっ!」
あたし達が和んでいるところに、それはやってきた。
細身で長身の男が、屋上に転がるように上がってきた。いや、実際転がってたけど。
「そんなにあわててどうしたの部下その一。
……それに姐さん、じゃなくてクイーン、よ」
いちいち細かいことを修正しつつ、クイーンはその男に向かって言った。
「──スティッキーですっ! それより、研究室にへんな男がっ!!」
部下その一……スティッキーはヒステリックに修正しつつ言った。
同時に、スティッキーが現れたのと同じ場所から、スティッキーよりも二回りは大きい男が現れた。
「……部下その二、状況はどうなってるの。
セキュリティ万全なこの私の研究室にカギも無く入れる人間なんて、そう居ないわよ。
──いや、それよりも私のかわいい試作品たちが危ないわ」
眉をしかめながらクイーンは言った。
「部下その二ではなく、トゥーラです」
大男は律儀に修正した。大変だなぁ、この人たち。
「──また変なモノ開発してないわよね」
サミィが心底嫌そうな顔で唸った。
「ふっ、安心しなさい。
…………もし使われてもこの学園がちょびっと滅びるだけよ」
答えるクイーンの頬に汗がつたっていたのを、あたしは見逃さなかった。
この学園には、あたし達の所属する三つの科のほかにも幾つかの大きな科があり、それだけでも凄まじい数の人が居るのに、それが各学年いるのだ。
学園、といっても規模はとても大きく、敷地面積は小さな都市くらいはある。
『──行くわよっ!』
あたしとキャナル、サミィの叫ぶ声が重なった。
「……なんですかこの職権を乱用どころか悪用したような建物は」
アメリアが不機嫌そうに言った。
そういいたいのはあたしも一緒である。
外から見ただけで無駄にきんきらし、妙に変な形の建物が、そこにたたずんでいた。
「──こういうのを美しさというのよホーホホホホ!」
全員がため息をついた。
「それで、どういう風に侵入者を捕まえるのか?」
イーザーが冷静に言った。
「──それについては考えてあるし、装備もしっかりと用意させておいたわ」
クイーンは大きく胸を張り、自信満々にそう言った。
ぱちり
クイーンが優雅な動作で指を鳴らすと、先程の部下二人が重そうな荷物を持って現れた。
「……ぜぇ……へぇ……
姐さん、言われてたものを持ってきやしたぜ」
言うと部下その一さんは、荷物にかかっていたカバーを取り払った。
──中身は全部重火器だった。
「……これで中の侵入者を捕まえるのか」
イーザーは荷物の中から大きなレーザー銃を拾うと、無造作な足取りで建物の入り口へと向かった。
「──ちょっと待ちなさい。この私の研究所に入れるなんて只者じゃあないわ。
まずは、中にいる侵入者がどんな奴か確認するのが先よ」
言ってブレザーからタブレットほどは大きくないが、手のひらよりは大きいサイズのパーソナル・フォンを取り出し、何かの操作をする。
ぽんっ♪
やたら楽しげな効果音が鳴ったと同時にパーソナル・フォンの画面が六分割し、どこか建物の中を映し出す。おそらくはこの研究所の内部の映像だろう。
「……うわ……」
キャナルが呻く。
まあそれも仕方ないだろう。画面に映し出された映像は、兵器の研究所の内部、というよりはなんかオカシな生物とかの研究をする実験室のようだ。
「──いたっ! こいつよ!!」
サミィが声をあげると同時にクイーンが何らかの操作をし、その侵入者が映っている画面を大きく表示した。
そこに映っていた男は、なにやら怪しげなローブのような服を着て、兵器……だと思われるものをあさっている。
「……まずいわね。あのへんはまだ制御装置をつけてない兵器たちが置いてあるあたりだわ」
クイーンはとんでもないことをさらり、と言った。
「あの子たちを盗られたらまずいわ。あなたたちを四つに分けて、こいつを捕らえるわよ」
言うなりあたし達を適当に区切りはじめる。
「えーっと……まあ文句は無いけど」
ひとまずあたしとサミィとアメリアの三人組。
「あなた達には地下から研究所に入ってもらうわ。地下への道は……サミィ」
「ええ。行きましょ」
言ってあたし達を先導する。その手には先程クイーンが持っていたものと同じパーソナル・フォンが握られていた。
「次は……あなた達ね」
言ってイーザーとゼル、ルークを指差す。
「──不満だあぁぁぁ! なんで俺と愛しのミリーナが別のチームなんだっ!!
ミリーナ、お前からも……」
「別のチームの方がいいです」
「──ミリィィィナァァァァっ!!」
「あなたたちは入り口から入って、男を捕まえてちょうだい。なるべく中の兵器には触れないこと」
本気で涙と鼻水垂れ流しつつ、ルークはイーザーに引きずられていった。
「……で、俺たちは何をすればいいんだ?」
残されたキャナルとケインは、二人不思議そうな顔でぽつんとたたずんでいた。
「──あなたたちは──」
「……これが学園の地下。初めて入ったわ」
「地下から攻めるなんて、まさに悪人退治の王道っ!! 燃えるわっ!」
いろいろ眺めながら言うあたしと、ひとり興奮するアメリア。
「ここ、迷うとなかなか出られないからはぐれないほうがいいわよ」
パーソナル・フォンでなにやら画面をいじりながら言うサミィ。
「わたしにはわかりますっ! わたしの心に燃える正義の炎が、悪はこちらだと告げていますっ!!」
言って右手の大きな通路を指差すアメリア。
「──こっちね」
冷静に左側に曲がるサミィ。アメリアが一人涙をこぼしていじけていた。
タッタッタッタ……
一緒に走っていくケインとキャナルを横目に、クイーンとミリーナはいまだ研究室の前にいた。
「……私は」
「あなたにはここで仕事があるわ。ミリーナ=エルスタンス」
なにやらまたパーソナル・フォンを叩きながらクイーンは言った。
その画面は、先ほどの外宇宙生物のような映像ではなく、金髪の少女を映していた。
いくらパーソナル・フォンの技術が発達しているとはいえ、この学園の地下まで電波が届くのだろうか?
……いや、このトンデモ科学者自称『クイーン』のパーソナル・フォンである。きっとなんだかよく分からない電磁波とかパルスとかアルファ波とかそんな感じの身体に良くなさそうなエネルギーでつながっているのだろう。
画面越しに金髪の少女……サミィは嬉々として言った。
『……ここにも侵入した形跡は無いけど、突入していい?』
もうこの地下に着いたのか、後ろには一緒に走っていった二人も見え隠れしている。
「もうちょっと待ちなさい。地上からイーザーたちが捕獲に向かってるから、万が一逃げられた時のためにそこで待機──」
『そんなの正義の味方らしくありませんっ! 正義の味方に万が一なんてないんです!! このわたしたちに正義がある以上、必ず勝利するんですっ!』
右のこぶしをぐっと握りしめてポーズをとりつつ、画面の向こうのアメリアは叫んだ。
『──そうよね』
『確かに、待機なんてあたし達の性に合わないわ』
リナとサミィも同じようなことを言う。
「……しょうがないわね。」
やれやれ、とパーソナル・フォンを閉じると、クイーンはミリーナに向き直った。
