この空の下で
ふう……。
自室にある大きなテラスで両肘をつき、夜空を見て少女はため息をついた。
「みんな……どうしてるのかしら」
みんな、というのは二年くらい前まで世界の存亡をかけて一緒に旅をしてきた友人たちのことだ。
彼女たちは自由だ。
自分の行きたいところへ行き、生きたいように生きることができる。
しかし自分はこの国の王女──といっても第二王女だが、第一王女不在の今、巫女頭としての仕事の傍ら、多数の公務をこなさなければならない。
父は『自由にしていい』というが、国民のため、国のため。自分はこの国を離れるわけにはいかない。
「──眠れんのか?」
大柄でやたらがっしりしたひげづらの男がテラスに現れた。
「……とーさん」
「アメリアよ、国のことを思いすぎるばかり、お前のことが見えなくなってはおるまいか?」
「わたしの……こと?」
国とは領地でも、城でもなく、国のことを思ってくれる国民だ。それはつねづね父が自分に言い聞かせてきたこと。
「──お前もこの国にすむ国民だ。国民が幸せでなければ、国は豊かにはならんぞ」
「わたしも……国民」
「そうだ。吾輩はセイルーンとこの国にいるすべての民。それと同じだけお前のことも思っておるのだぞ」
自分は大国セイルーンの王女。
生まれた時から姫として扱われ、国のため、民のためと尽力してきた。
時にどこかの街で盗賊が現れたときけば、退治しに自ら出向くこともあった。
──しかし、自分の胸に燃えさかる正義の炎はそれだけでは満たされなかった。
……リナと旅をした数ヶ月間の充実感、それは自分にとって人生で最高の数ヶ月だったといえる。
生と死のはざまで世界を滅ぼそうとするものたちと戦う。
国の飾り物としてただ生きていくだけとは違う。
それは『生きている』という実感があった。
あの時の快感、それはえも言われぬほどであった。
「……そうね! わたし、また旅に出るわ!!」
「そうこなくては! それでこそ我が娘!」
結界の中の世界は狭い。きっとあの騒がしい友人たちがどこにいるかはきっとすぐわかる。
──また行こう、わたしらしく生きるために。
──!
瞬間、アメリアは何かの気配を感じた。
「父さん! 部屋へ戻って!」
「何じゃと!?」
フィリオネルを部屋へ押し戻すと呪文を唱え始めた──
「聞いたとおり、この城はずいぶんと無用心だな」
この声は!
「──ゼルガディスさんっ!?」
白き衣の魔剣士は、屋根からテラスへと降り立った。
満天の星空に白いマントがよく映える。
「忍び込むような真似をしてすまないアメリア。これだけ大きな街の中をあまりウロウロしたくなかったものでな」
「どうして城に?」
かつての仲間の思いがけない登場に、歓喜よりもあっけにとられてしまった。
「俺は……今も元の姿に戻る方法を探している、そこでセイルーン王家所有の書物も見ておきたいと思ってな」
「うちの書物は、白魔法に関するものばかりで、合成物生成の魔術に関するものは少ないですよ?」
「いいんだ、合成魔術の魔道書はもう一通り読んだが、元に戻るための記述はほとんどみられなかった。
だから、今度は白魔法や精霊魔法、黒魔法を研究して元に戻る方法を探そうと思っている」
「そうなんですか! なら、今日から王宮に泊まっていってください。うちの蔵書量を見たら、きっと驚きますよ!」
アメリアは客間を用意させると、自室で少し話を聞かせて欲しいと言った。
「──あれ以来、リナやガウリイに会ったか?」
「いいえ。ただ、最近起こった異常気象やデーモンの活性化についてリナが関わっていたんじゃないかと思っています」
アメリアはその時デーモン退治にあちこち駆けずり回っていた。
「俺もだ……噂はずいぶんと聞くが、今頃どこで何してるんだろうな」
「きっと、変わらず楽しそうにしてますよ」
「そうだな」
くっくっとゼルガディスが笑った。
あの二人ならきっと変わらずやっているはず、その壮絶で楽しかった時間を思い出すだけで、アメリアにも自然と笑みがこぼれた。
「──今頃はどこで暴れてるんんでしょうね?」
「あいつらもきっと、どこかでこの空を眺めているさ」
再会するのは……数日後のおはなし。
────あとがき────
なんとなく、お互いがときめき以上片思い未満なゼルアメ。
っていうか、旧サイトから含めてもゼルアメって初めてかも。
長編につながるように書いてみました。
