剣術修行
あの日以来、日に三回の水汲みと、朝夕の薪割りはガウリイの『仕事』となった。
毎日友達とかくれんぼや鬼ごっこをして、時間になればフルコースの食事が出てくる生活とは一変したが、ガウリイはこの生活のほうが好きになった。
汗をかきながら働いて、その対価として豪華ではないけれど美味しいご飯をいただく。
ガブリエフ家でシェフが作るマッシュポテトと牛フィレ肉のマスタードなんとかを上品に食べるよりも、ひいばあちゃんお手製の子鹿のローストを手で食べるほうが美味しいように感じた。
そしてその生活を始めて三年経ったが……
「……エミィばあちゃんはさ、一体いつになったらオレに剣術を教えてくれるんだ?」
「あんたにはまだ早いよ。剣術よりも、基礎からさ」
いつもこう言われるばかりで、ガウリイは剣術を何一つ教えてもらっていなかった。
少し不満にも思ったが、ガウリイは言われていた水汲みと薪割りをひたすら続けた。
水汲みは、家で大きなバケツ一杯に水をいれても運ぶ時によろけないようになったが、薪割りはなかなかうまくできなかった。
「──でえいっ!」
がこっ
……いつもこうだ、少し疲れてくると打点が定まらず、斜めに斧を振り下ろしてしまうため薪は割れない。
それどころか、割れて積み上がっている薪も太いものがあったり、細かく折れてしまっていたりとバラバラだ。
しかし、ばあちゃんが見本に見せてくれたときは、何十本と薪を割っても垂直に振り下ろし、均一な薪ができていた。
「いてぇ……手が豆だらけだ」
毎日毎日薪を割り続けたガウリイの手はもう豆だらけになっていた。しかし、豆だらけになっても薪を割り続け、豆が潰れてもそれは続いた。
ある日。
──ザクッ
「えっ!?」
来る日も来る日もガウリイは薪を割ってきたが、こんなに潔く割れたのは初めてだった。
割れた薪にかけよって見てみると──いつもはひび割れてささくれだらけの薪が、まるで木材のように美しい断面を見せていた。
「やるじゃないか、ガウリイ」
ガウリイが振り返ると、エミリアがやってきて、しわくちゃのごつごつした手で頭をなでてくれた。
「──じゃあ!」
剣術を教えてもらえる!
「一日に割る薪を全て、今のようにできるようになったら剣術修行を始めようじゃないか」
ガウリイは大げさに肩を落とした。
「エミィばあちゃん、それ何年かかるんだよぉ……」
「一本できたんだ。集中力を切らさなければ一年足らずでできるはずだ」
「本当か!? よーし、やってやるぜ!」
…………二年かかった。
だがこの五年間で、ガウリイはぐんと身長がぐんと伸び、しなやかで張りのある筋肉もついてきた。
ガウリイは知らない。剣術の基礎がこの薪割りに隠されていることを。
そして……この曾祖母も自分も、憧れの光の剣士の末裔であることを。
