没落
エルメキア帝国。広大な領地を有し、軍備に重きを置く大国だ。
──だが、近年は隣接する滅びの砂漠からの侵食をうけ、農地減少が問題に挙がっている。
そのエルメキアでも有数の名家といえば、貴族リントルーナ家や大商人フルス家、剣聖ガブリエフ家。
“剣聖”ガブリエフ家──エルメキアだけでなく周辺の国々でもきっとその名を聞いたことがあるだろう。約百年前、サイラーグに現れた魔獣ザナッファーを光の剣で討ち果たしたという伝説の一族だ。
しかし、そんなガブリエフ家は現在国での権力が衰えつつあった。
……その理由は、伝説の光の剣の剣士にあった。
エルメキアに残る伝説では、光の剣の剣士は金髪碧眼。しかし、ガブリエフ家の人間は灰色がかった茶髪に同色の瞳。そして、光の剣は金髪碧眼の人間にのみ受け継がれ、現在の頭首エルディオ=ガブリエフは光の剣を所持していない。
光の剣の伝説以前から代々ガブリエフ家はエルメキア軍に仕官し、剣術では右に出るものはいないとされてきた。
確かに、エルディオは現在帝国軍で剣術指南役をしているし、腕はもちろん一流である──が、伝説の一族に剣術を教えてもらえるとして仕官した新人たちはガブリエフ家の頭首が光の剣を持っていないことを知ると、のきなみ肩を落とす。
現在光の剣の継承者はエルディオの祖母、エミリア=ガブリエフである。もちろん金髪碧眼、そして剣術の腕は超一流。おそらくだが……現在でもエルディオより腕が立つ。
──ガブリエフ家には伝説では伝えられていない秘密がある。実はザナッファーを滅ぼした剣士は『茶髪の女剣士』であった。その女剣士はいつも『金髪碧眼の竜族の男』と行動を共にしていたらしく、いつからかそれが間違って伝わってしまったのだろう。
その女剣士は竜族の男と後に結婚し、子供をもうけた──竜族の男によく似た、金髪碧眼に無尽蔵の体力を有する子供を。
その子がエミリアなのだが……エミリア以降、金髪碧眼の人間は生まれていない。
ザナッファーを倒した女剣士の遺言で、光の剣は金髪碧眼の人間にのみ受け継がれることとなっているため、現在光の剣の継承者はエミリアのみである。
エルディオにはもうすぐ一才になる男児が一人いるが、その子も茶髪。
もう金髪碧眼の子など生まれないのではないか──そんな話が持ち上がっていた頃、エルディオの妻が妊娠……金髪碧眼の子を出産した。
ガウリイ=ガブリエフ、光の剣の正当な継承者として生をうけたこの男児の未来に、幸多からんことを……。
