新井みりんによる神坂一作品の個人ファンサイト。

帰郷

 返事は、無い。
 まだアメリアはガウリイに手をかざし、一心に呪文を唱えていた。
 ──人間が使えるうちでの最高の回復呪文で回復してもこんなにセイルーン時間がかかるなんて──!

 あたしは、以前にも仲間を失ったことがある。
 正直、セイルーンにいたのはセイルーン王家が保管している魔道書の閲覧と、復活などの白魔法の習得が目的だった。しかし……白魔法を苦手としているとはいえ、復活の呪文を習得できなかったことをひどく後悔した。
 ややあって──
「…………ふう。まだ安心は出来ないけど、傷は治ったわ」
 言いながら額の汗を拭うアメリア。
 ガウリイの顔色はまだ多少青い。なにより…………意識が戻らない。
「──ゼフィーリアで魔法医に診せたほうがいいだろう。急ごう」
 言って今だぐったりとしたガウリイをその肩に担ぐゼル。
「そうね。
 ……でも行くならゼフィーリアの王宮のほうがいいわ」
「──王宮って! すぐ次の街で魔法医に診せないと……!」
 アメリアに人差し指を向けて言葉を止めさせると、あたしは呪文の詠唱を始めた。
 そう、通常ならここからゼフィーリアの王宮がある首都ゼフィール・シティまで丸一日かかる。だが──あたしには考えがあった。
「──翔封界!」
 ぶおぐおおぉぉぉぉ!
 増幅付きの凄まじい風の障壁があたし達を包む。
 そしてあたしの考えを読み取った二人はあたしにしがみつく。
 普段は二人でいっぱいいっぱいの高速飛行の呪文も──この超強力な増幅なら、たとえ四人でもかなりのスピードが出るはず──!
 ぐぐんっ

 それは異常だった。
 はたからでは見ることすらも、きっとかなわなかっただろう。
 ──つまりあたしたちはとんでもない速さで翔んでいた。
 アメリアはあたしの足にしがみついたまま気を失っている。
 ゼルはその状況を認めるのが嫌だ、とばかりにしっかりと目を閉じている。
 ……あたしは術を制御し、もおなんだかわからない速さでゼフィール城を目指していた。
「──見えたっ!」
 あたしがそう叫ぶと、アメリアは我に返り、ゼルはおそるおそるまぶたを開けた。
「あの高いのがゼフィール城!?」
 アメリアが思わず叫んだ。
 ゼフィール城のシンボル、大尖塔を初めてみたのだろう。
 まるで天を衝くようなその尖塔のてっぺんでは、ゼフィーリア王国の領土を一望することができるのだ。……もう二度と自分の足で登ろうとは思わないが。
「──そうよ! あれがあたしの郷里、ゼフィール・シティ!
 さあ、飛ばすわよっ」
「いっやあああぁぁぁぁぁぁ!」
「やめろそれだけはああああ!」

 普段は制御が難しいこの術も、増幅のおかげで制御はとても簡単になっていた。
 少し高度を下げ、そのかわりに速度をあげる。
 二人が後ろでうわごとをつぶやいているようだが……まったくもって情けない。うちの姉ちゃんのお仕置きをうけたら………………いや、やめておこう。あたしも命は惜しい。

 ……そして、ゼフィール・シティに入るなり、あたしは城を目指した。
「──リナ! 魔法医のところは!?」
「永遠の女王は魔道士なのよ! あの人だったらきっと何とかしてくれる!」
 永遠の女王──アリシア=ルスタ=メルティアス=ゼフィーリア三世。
 若干二十二歳で王女の座に就き、それ以来五十余年ゼフィーリアを治める女性。
 国の歴史の中でも数少ない女性の王位継承者だが、ゼフィーリアがここまで豊かになったのも、彼女の善政の賜物だろう。
 そしてあたしたちは、門番を風圧でふっ飛ばしながら二階の謁見の間に入った。
 その部屋の中に兵士はおらず、赤い毛氈の絨毯の先には大きな玉座。そこにたたずむのは赤毛の、絵に描いたような美しい女性。見た目は二十代後半くらいである。
「──王女アリス! 助けて欲しいの!
 あたしの連れが怪我をして、傷は治したんだけど……意識が戻らないのよ」
「──あら。やっぱりきたわね……これを飲ませてあげるといいわ」
 いって小さな小瓶を投げてよこす。
 あたしの親指くらいの大きさで、クリスタル製だろうか。だが中身はよどんだ深緑色。はっきしいって絶対飲みたくない。
「──え? え!?
 リナ、あのきれいな女性がアリシア王女?」
 信じられない、という表情で聞いてくるアメリア。……ははーん、永遠の女王の由来を知らなかったな。
 永遠の女王──それは彼女のその姿が美しいままで在り続けることに由来している。一説には、魔法で若い姿を保っているだの、実は既に滅びた水竜王で、年をとるスピードが遅いだのと言われている。
 その王女にゼルも目を丸くし、ビミョーに見とれていたりする。
 アメリアの質問に答えたのは、あたしではなくアリスだった。

「──ええ。そうよ。
 アメリア=ウィル=テスラ=セイルーンさん、ゼルガディス=グレイワーズさん」
『……なっ……!?』
 二人は同時に声をあげた。あたしもゼルのフルネームを聞いたのは初めてだったので、少し驚いたが。
「──わたしのことを知っていたんですか!? 感激ですっ!」
 みやみに目を輝かせながらアメリア。
「──なぜ俺のフルネームを知っている!?」
 不審そう……というか警戒心むき出しでゼル。
「あなたはまだお母上がご健在だった頃にセイルーンの王宮で見かけたことがあるもの。……お父上には似なかったのね。良かったわ。
 そしてあなたは──いろいろやってきたんでしょう。赤法師さんの曾孫……だったかしら? わたしはここから動けないけれど、その代わりに様々なことを教えてくれる子たちがいてね。色々なことを知っているのよ」
 言ってアリスはにっこり。ゼルとアメリアの二人はまるで陸にあげられた魚のように口をぱくぱくさせている。
 そんなやりとりをしている間にあたしはガウリイにアヤシい薬を飲ませておいた。
 ……飲ませた時にガウリイが小さく呻いたのは気のせいではないだろう。
「…………う……ぁ……」
 どーやらやっと意識を取り戻したよーである。
「──一体何をやっとんじゃおのれはあぁぁぁっ!」
 どぐめしっ!
「──ぐえっ!? いきなり何すんだよリナっ!」
 どうやらあたしの稲妻かかと落としは気に食わなかったようである。
「……あんたが勝手にあたしを庇って! 大怪我して! 心配させた罰よっ!!」
「おー。心配してくれたのかあ。すまんすまん」
 言ってあたしの頭をぽんぽんっ、と叩く。
「夫婦漫才はそこまでにしておきなさい、リナ」
 退屈そうにアリス。
「──あ、そうそう。
 ルナ達はイルマード公国に旅行に行ったわよ。プライベートビーチで一ヶ月。福引きで当てたって言ってたかしら。
 お父さんは家出したみたいね。どうしたのかしら? うふふ。
 そうそう、家の見張りと雑貨屋の店番はスポットがやってるらしいから大丈夫よ」
 …………負けた…………! イルマードの事に関しても勝つことはかなわないのか……!
「…………てゆーかスポットって……何?」
「ルナが拾った犬?」
「なにゆえ疑問形。つーか犬は店番しないし!」
「帰れば分かるわよ」
 ンなてきとーな…………。

 ──久々のこの空気。街を歩いていて、いろいろ言われたが。
 リアランサーはいつもほどとはいかないが、やかましいくらいににぎわっている。
 ……きっとうちの姉ちゃんに挑むつもりで来たガラのあんまし良くない連中が、好き勝手なことを騒いでいるのだ。
 きっとすぐ姉ちゃんの友達に黙らされることになるだろう…………実力行使で。かわいそうに。
『インバース雑貨店』
 うちの店に大きく書かれたその文字を見て三人は声を揃えた。
「──なによ! 店番居ないじゃないっ!」
 言いつつ店の裏手に回るあたし。後ろから三人がひょこひょこ着いて来ている。
 ──?──
 庭に変なものが見えた。あたしが旅に出るまではなかったもの、とゆーか建物。
 物置にしては少し小さい。だが犬小屋にしては大きすぎる。
 …………だがそこにはステーキセットの空の食器と『スポット』と書かれた看板。
「……犬小屋にしては少し大きい……よな?」
 混乱するあたしの頭の中ををいちいち復唱するガウリイ。
「……まあいいわ……お茶でも出すから、どうぞあがって……」
 疲れたように言うあたし。いや実際疲れたけど。
 がちゃり
「──っ!?」
「──! 貴様っ」
「……あっ! てめえっ!」
 声をあげたのはあたしとゼルと侵入者。
 ──だがその侵入者は──!

 白い三角巾をかぶり、ひらひらのエプロンに身を包み、右手にはピンクのはたきをもった──獣人。
「……うぷぷっ! ……あ、あんた何その…………かっこぷははははは!」
「…………死んだとばかり思っていたが………………こんな、くっ……!」
「笑うなああぁぁぁぁ!」
 そう。そこにいたのは見まごうはずもない獣人。といっても、トロルと狼のハーフだが。
 ちなみにあたしとガウリイとゼルの三人は良く知った相手。……まぁガウリイは忘れているだろう。
「…………くっ、苦ふぃあははははははははは! も、もしかしてあんたがスポットなわけ!?」
「──姐さんに拾われて……ってだから笑うなああぁぁぁぁ!」
 爆笑。
 スポット、ことディルギアを知らないアメリアはただただきょとんとするばかり。ディルギアのことをすっかり忘れているガウリイはあたしたちのやり取りを眺めている。
 なんとか落ち着いたところで、スポットは思い出したように口を開いた。
「──そうだ。姐さんが妹が帰ってきたら渡せって言ってた物があるんだ……よっと」
 ……姉ちゃんが……?
「──これだ」
 差し出したのは──少し大きめの水晶球。
 ……だが、姉ちゃんの持ち物である。ただの水晶球なわけはない。
「……なによこれ」
「そんなの知らねぇよ。ただ渡せって言われただけだからな」
「──ふうん」
 まぁいちおう持ち歩いておくか。
「──ねえリナ。赤の竜神の騎士はどこに居るの? 会いに行きたいんだけど」
 ああ。まだ言ってなかったっけ。
 事情を知っているのかスポットは不思議そうな顔をアメリアに向ける。
「……何を言ってやがる。姐さんなら旅行に行ったって聞いてねぇのか」
 あ。やっぱし知ってた。
「いやスポット、俺たちが聞いているのはリナの姉ではなく赤の竜神の騎士の居場所だ」
「──スポットって呼ぶなっ! それに姐さんが赤の竜神の騎士だぜ」
 ゼルの言葉にヒステリックなツッコミをいれつつスポットは言った。
『ええっ!?』
 声をハモらせるアメリアとゼル。まったくもって良く驚く連中である。
「そーよ。赤の竜神の騎士は、うちの姉ちゃんルナ=インバースよ」
「……で? ここでなにをするんだ?」
 珍しく口を挟むガウリイ。
「──そーいやそーよね。ゼロスはまたどっか行っちゃったし。
 しばらくのんびりしましょ」
 言ってウインクひとつ。
 …………それに、あたしはこの水晶球のことを調べないと。姉ちゃんと仲の良いアリスにでも聞いてるのがいいかもしれない。

 それからしばらくは平和だった。
 みんなでアリスとお茶をしたり、リアランサーに近づかなかったり。
 水晶球のことをアリスに聞いてみた。答えはこうだった。
 ──新月の日の夜に、城へ来なさい──
 ……今夜は新月。あたしは適当な理由をつけて家を出ると、城へ向かった。


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いつかはやってみたい企画

仲良しメンバーで集まって、スレイヤーズカラオケやってみたい。
でもスレイヤーズ以外も歌いたいから結局アニソンカラオケ。