疚(やま)しい気持ち
「──入るわよ?」
「おー、いいぞ」
本当はわかっていた。先程から何やらごそごそと隣の部屋でしていたようで、気配をずっとうかがっていたのだから。
リナが部屋へ入ってくる。
いつもとは違った。
──ふわふわとした栗色の髪を結い上げ、白い肌を曝し──深紅のドレスに身を包んでいた。
オレが思わずよろよろと立ち上がると、リナが的外れなことを言いはじめた。
「──やっぱり……似合わない?」
「そんなことない……よく似合ってるよ」
そうオレが返すと、リナは照れて真っ赤になる。
「良かった!」
照れながらも、まるで花が咲いたように美しい笑顔に──どうしようもなく惹かれた。
「……なんでそんな格好を?」
「え? ああ、さっき宿のおばちゃんがくれたのよ。昔着ていたものだけど、サイズが合うなら……って」
リナが歩くとスリットから白くすらりとした足があらわになる。
そこから服を破き、ベッドに押し倒して獣のごとく襲いかかったら──そんな妄想がオレの頭の中を駆け巡る。
「……そんな服で旅なんかできないだろう?」
なによりオレの理性が保ちそうにない。
「そう……やっぱり返してくるね」
残念そうにリナがドレスを見る。
「──その服で旅はできなくても、持っては行けるだろう?」
リナのためではなく……オレのために言った言葉だった。
理性は保ちそうにない……だがこんなリナをまた見てみたかった。
「……それより、さ。なんか思わない?」
うつむいてリナがぽつりと言った。
「いつもと違ってリナじゃないみたいだなぁ」
オレはへらへらと笑った。
「…………そう」
うつむいたまま返すリナの声は明らかにトーンが下がっていた。
……傷つけた?
「綺麗だよ」
オレがそう言うと、リナははっと顔を上げた。
「──このまま押し倒して無理矢理オレだけのものにしたいくらい……綺麗だ」
オレが今の正直な気持ちを伝えると、リナはそのまま固まった。
固まってしまったリナをどうにかしようとオレが歩み寄ると、リナは部屋の隅へと逃げた。
「──っ! ちっちち近寄らないでよっ!?」
真っ赤になって逃げようとするリナを見てオレの理性はいよいよ危なくなってきた。
「リナ……」
「──はいっ!」
「頼むから出ていってくれ……さもないと……襲うぞ」
ダッシュで出ていくリナの姿に名残惜しさを感じつつ、オレはベッドにどっかりと座った。
胸のあたりを押さえつつ、あたしは自室のドアに背を預けていた。
「……なんなのよ」
宿のおばちゃんがくれた時、こんな話をしてくれた。
──自分はこのドレスで夫と結ばれることができたのよ──と。
「……ガウリイ……本気だったのかな」
先程隣の部屋で何の前触れもなく爆弾発言をした男のことを思い出しつつ、リナはぼんやりとする。
コンコン
ふたたび部屋に来訪者が訪れる。
「どうした?」
「……部屋に入れて」
とまどうようにリナが答える。
「カギは開いてるぞ」
部屋にリナが入ってくる。リナの服は──先程と同じドレスだった。
「──リナっ!」
オレは理性を総動員してなんとか欲望を押さえ付ける。
この姿は目の保養だが同時に目に毒すぎる。下半身の一点に若干血が集まってきてしまったのはもはやどうしようもない。
「……さっきの言葉……本気?」
身長差で仕方がないとはいえ、上目遣いでおずおずと問いかけてくるリナを見て理性がガラガラと音を立てて崩れ始める。
「当たり前だろう?」
「──いつも子供扱いするくせに」
そっぽを向いてむくれるリナにゆっくりと気付かれないよう近づく。
「だったら……本当はオレがどう思ってるか教えてやろうか?」
「……ど……ドレスの……せい……かな」
行為を終えてすぐ息も絶え絶えにリナは言った。
「違うな。ドレスは単なるきっかけに過ぎない。オレを惹きつける魅力やなんかはすべてリナのものだからな」
「……恥ずかしいセリフ」
言うとリナはオレの腕の中でくるりと半回転し、外側を向く。
「……こんな狼男でよく理性が保ってたわね」
「好きな女にドレスで迫られて平気なやつは男じゃない」
「──迫られっ……んぅ」
反論しようとする口をキスで塞ぐと、それをきっかけに行為が再開する。
──そう、ドレスは単なるきっかけに過ぎない──リナへの疚しい気持ちはずっと抱いてきたのだから。
